さて、前回のポイントにあがってきたのは、「座面の割れを直す」ことでした。
1、座面がパカっとふたつに割れたのはなぜでしょうか?
2、再発の可能性 ただ単純にくっつけて、また時間がたつと割れないのでしょうか?
3、ジョイントコンストラクションを維持することです。この椅子の構造上大切な特徴はペグを使って部材のジョイントを補強していることです。見えかけ上このペグを保存することは非常に重要です。
これら3つの問題点を解決しながら、きちんと強度をだして、全体の印象があがるようにしたいと思いました。これが今回の椅子の修復のポイントとなりました。
そのためには、座面が割れた原因を推測することからはじめました。
座面はペグで上から座面したのレール部分に止められています。
非常にタイトにとめられているので、座面の動きに追随しなかったのでしょう。
ですので、座面の木部は乾燥などによって伸縮したいのですが、
無理に固定されているので、木の中で生じたエネルギーが抜ける部分が、
節の部分や木目の部分、木の弱い部分へと集中して、どうにか動こうとします。
これは新しいテーブルなどを作ると天板の裏に駒などを設置したり、
組あわせ方に工夫をして天板が動けるようにしてあります。この考え方が必要だったということです。
まずはこの座面をはずす作業ですが、これはペグを少しづつ押し出すように、
座面とレールの間に隙間を作って少しづつ押し上げました。
なるべく既存のペグを大切に保管しました。
そして、座面はいちど過去の修復部分も除去して、
分解し、クリーニングして、ジョイントカッターで溝を作って、チップと接着剤で接合しました。
このあたりは板矧ぎ継ぎと同じことをしています。接着剤はアニマルグルーです。
この時に大切なことはジョイントにいかなる金属も使わないということです。
人によっては使う人もいますが、僕は木の動きを金物が阻害する為
割れや反りが起こると考えています。
そして、ペグを一部ゴムに変えることにしました。
これで座面の動きはこのゴムの部分で吸収してくれるだろうと予測しました。
すこしゴムのペグは短くして、ゴムの上に見えかけは同じ木部のペグになるようにしました。
これで2.3の問題も解消されたはずです。座面の動きが自由になれば、割れの再発の可能性は低くなりますし、
ペグの構造自体は変わってないので、いい解決策だと思われます。
ただし、この椅子は19世紀に造られたアンティークではありますが、ヴィクトリアン時代に作られたコピーの雰囲気があり、
依頼者である学校側の希望で座れるように強度を優先する了解を得られたので、できた解決策です。
もしこれが、17世紀のジョイントコンストラクションによる椅子であれば、
強度を優先することはありません。
なぜなら、座る椅子としての役割を終え、飾ったり、博物館で保存される部類のものになりますので、
座面も固定せず、動けるようにレールの上に置くだけの措置になると思います。
そこは、臨機応変に現実的に解決していくことが大切だと思います。
ですので、状況把握、相談といったコミュニケーションをとることが非常に大切です。
ちなみに僕たち外国人(イギリス留学時代においてイギリス人から見て)はこの点において、
難しい英語を話さないので、かえってミスコミュニケーションが減っていたようです。